世界自然遺産のある町
先日、羅臼町の脇 紀美夫町長の講演に参加する機会を得た。
ご存知羅臼町と言えば、2005年に世界自然遺産に登録されたあの
知床の町である。
世界遺産の定義に「過去から引き継がれ今の世代で失うことなく、次の世代
へ引き継いでいこうという人類共通の貴重な財産。」とある。
その貴重な遺産である羅臼町の町長さんの講演の演題は「地域医療と保健福祉」
であったが、なぜその演題かというと、この脇 町長は地域医療の充実と保険福祉
を最大の公約に揚げ、全力を注いで取り組んでいるからである。
更にこの町長は、全国各地で地域医療の危機を訴え続け、医師の研修制度が
変わり、更に看護師不足の問題が地域医療の崩壊につながっている事をも訴え
続けている。
今回の講演で、その地域医療のこと以外にも興味のある話をしてくれた。
羅臼町は人口が6200人程の小さな町で、産業の中心は漁業であり
その水揚げは年間130億円ほどあるらしい。
さらにそのほとんどが秋鮭漁で、なかには年間3億円の水揚げがある
漁師もいて、その人の所得は1億を越すというからまさに驚きである。
私も羅臼に行ったことがあるが、その時も道路際にあるやたらにデカイ
御殿の様な家に驚いたものである。まさに鮭御殿そのものであった。
そんな羅臼町も色々な問題から、町立病院を単なる診療所に変えなくては
ならなくなったのである。
入院施設の無い町になってしまったのである。
そうなると一番重要なものは何であろうか?それは救急車なのであるが、
いま羅臼町には2台の救急車しかなく、あと一台救急車を買う事が急務
であった。
ただしかし、財政難で苦しんでいる小さな自治体にとってそんな余裕がある
わけもなく、ただひたすらに複数の急病人が出ない事を祈るしかなかったの
である。
そんな時、定置(鮭の定置網)の組合がやって来て「町長!これで救急車
買ってくれ!」と言って5千万円を置いていったと言うのである。
こんなこと都会では考えられないことであり、過去聞いたこともないが、町長
に言わせれば、これが漁師の町であるらしい。まさに驚きである。
さらにこんな話もされていた。
「山には熊と鹿、海にはワシとクジラ、陸には人間だけ!これが世界遺産!」
人間も生活する区域が世界自然遺産に認められたのは。知床が世界初である。
その時のテーマである『自然と人間の共生』に世界の注目が集まった意味が
やっと理解できた。
最後になるが、地域医療の再生に全力を注いでおられるこの脇 町長が、話の
終わりに「いま国がやろうとしている事は理解できない訳でもないが、地域格差
や所得格差はまだしも、命の格差は絶対に許せない!」と話されたこが今でも
心に響いている。
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