岩見沢駅に昼時に降りたとしよう。腹がすいたな、ということで食堂を探す。しかし岩見沢というところは、駅前で昼餉(ランチ)にしようとすると意外と困るところなのだ。つまり岩見沢駅前に食堂は極端に少ない。
そんなとき、私が決まっていく店があって、それは交番の斜め向かいにある西谷食堂なのである。
この店は、いわゆる大衆食堂であり、たとえば車寅次郎が、なにげにそばでも食べている、そんな情景を思い浮かべていただければよろしい店だ。
メニューは豊富で、麺類でも、ご飯ものでもなんでもある。つまり、ないものはないのだが、私がきまって食べるのは丼ものなのである。
カツ丼
ここのカツ丼は妙にはまる。特別いい肉を使っているわけでもないし、カツがドンと厚いわけでもない。ただの淡々としたカツ丼であるのだが、しかし一口食べたとき、これはなんだ、なのである。そして食べすすめるうちに、ますます、これはなんだ、という思いが強くなる。
その、これはなんだ、の正体は、生姜味なのだ。それはたとえば、しょうが焼き定食の味がかつどんになったと思っていただければよろしいわけで、あたしの知る限り、生姜味のカツ丼は、ここ西谷食堂でしかお目にかかれないのである。つまりこれも岩見沢の誇る国士無双ということになるだろう。
それは暫く経つとまた食べたくなる、という習慣性が強い味なのであり、私は、ついつい西谷食堂へ足が向いてしまうのである。
開花丼
そしてもうひとつの贔屓は開花丼である。私の住んでるところには存在しない、たぶん北海道オリジナルのこのネーミングの丼は、他人丼といっていまえばそれまでなのだが、それをわざわざ開花丼と呼ぶところに、岩見沢の、北海道の食のプライドがある。