JR岩見沢駅前にあるやきとり三船は、私にとって日本一のかしわ鍋の店だ。それは醤油ベースの、鶏モツの鍋で、もちろん味は天下無双、絶品である。
しかしその滋味は、たんなるレシピ的な再現性を超えていて、三船という店だけがもつ〈磁場〉がつくりだした純生産であり、もう、こんなものどこにもあるはずがない、という、どうしようもなさなのである。
三船のアジール(避難所)性は、東京に暮らす私にとって抜群なものがある。この店には都会的な媚がなにもない。ただひたすら、ずっとこうやってきたんだ、というモノしかないのである。
それはまだ国鉄があったころ、そこで働く人々が、早番で仕事を終えたあとの一杯を、夕方早くからここで楽しんでいた時代の、つまり日本という国が、希望という空気で充満していた頃の、空知が産炭地として栄えていた頃の、熱気の残骸が、まるで無限小のように、そして精霊のように店に棲みついているかのようにだ。
それが世間疲れした客を、優しく、しかし強度ある次元となって、迎えてくれる。
それは《そこへ行き、そこから帰ってくる一つの中心、そこを夢み、そこへおもむきそこから取ってかえす、一口にそこで己を発見する一つの完全な場所》(ロラン・バルト:『表徴の帝国』:p52)なのであり、岩見沢に暮らす人々ばかりでなく、高度経済成長期に育ったわたしたちの、こころの中心なのだろうと思う。
この中心(三船)に来ることで、私はいつも(少しだけ)元気になり、そしてまた明日も生きることに希望を持つことができる。岩見沢には三船があることで、中心がある。そんな岩見沢を、幸せな街だな、とこの店に来るたびに思うのだ。
三船の焼き鳥は、モツと正肉の二種類しかない。味付けは塩だけ。しかしこれがまたうまい。ビールがいくらでもすすむというものだ。そして肉の間に挟まっている玉葱。それは岩見沢が玉葱の日本有数の産地であることを表徴している。
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